デルファイ法のやり方2026|専門家の合意を段階的に形成する手順とラウンド設計

デルファイ法とは、複数の専門家に匿名で同じ質問を繰り返し、各ラウンドの集計結果を返しながら回答を修正してもらうことで、段階的に意見の収束を図る調査方法です。対面の会議で生じる同調圧力を避けられる点が最大の特徴です。

デルファイ法でラウンドを重ねるごとに回答が収束していく様子の図
ラウンドを重ねて回答のばらつきが縮まっていく過程そのものがデータになる

デルファイ法はどんなときに使うのか?

この方法が力を発揮するのは、統計的なデータが存在しないか、あっても答えが出ない問いです。

  • まだ実現していない技術や制度の将来予測
  • 教育・看護・福祉などで「望ましい実践とは何か」の基準づくり
  • 評価指標・チェックリスト・コンピテンシー項目の妥当性の検討
  • 症例が少なく大規模調査が組めない領域での指針の作成

逆に、母集団から標本を抽出して一般化したい問いには向きません。デルファイ法の回答者は代表性を持つ標本ではなく、意図的に選ばれた専門家だからです。得られるのは「専門家集団の合意」であって「集団全体の実態」ではありません。この区別を混同した記述は、審査で必ず指摘されます。標本抽出によって一般化を目指す場合は サンプリング方法と標本サイズの決め方 の考え方が必要になります。

3つの基本原則とは何か?

デルファイ法を成立させているのは次の3点です。どれか一つでも欠けると、単なる複数回のアンケートになります。

原則 内容 これが崩れると
匿名性 回答者は互いに誰が何を答えたか分からない 権威のある人の意見に引きずられる
反復 同じ質問を複数ラウンド繰り返す 意見を修正する機会がなくなる
制御されたフィードバック 各ラウンド後に集計結果を回答者へ返す 他者の判断を踏まえた再考ができない

とくに匿名性は運用で崩れやすい部分です。少人数のパネルで所属や職位を尋ねると、集計結果から個人が推測できてしまうことがあります。属性は分析に必要な粒度に絞ってください。

実施手順はどうなるのか?

  1. 研究課題と「合意」の定義を先に決める——何をもって合意とみなすかを、データを見る前に決めておきます。後から基準を動かすと恣意的になります。
  2. パネルを構成する——専門家の選定基準(経験年数・資格・実務領域など)を明文化します。人数に絶対的な決まりはありませんが、脱落を見込んで多めに依頼するのが実務です。
  3. ラウンド1を実施する——自由記述で論点を広く集める設計と、文献レビューから作った項目案に評定してもらう設計の2通りがあります。
  4. 回答を集計し、項目を整理する——自由記述は内容を分類して項目化します。手順は 質的データの分析方法2026 のコーディングがそのまま使えます。
  5. ラウンド2を実施する——集計結果(中央値や分布、必要なら自分の前回回答)を示したうえで、再度評定してもらいます。
  6. 合意基準に達した項目を確定し、必要ならラウンド3へ——多くの研究は2〜3ラウンドで終えます。
  7. 結果を記述する——各ラウンドの回答者数、脱落数、合意に達した項目と達しなかった項目を、すべて報告します。
デルファイ法のラウンド間で回答を集計しフィードバックを作成する研究者
ラウンド間の集計とフィードバック作成が、この方法の実務的な負荷の中心

「合意した」とはどう判断するのか?

ここが最も設計の質を問われる部分であり、唯一の正解はありません。だからこそ、基準を事前に決めて論文に明記することが必須になります。よく用いられる考え方は次の3系統です。

  • 一定割合以上が高評定を付けたか——たとえば「重要である」に相当する評定を一定割合以上が選んだ項目を採用する。
  • ばらつきが小さくなったか——四分位範囲などの散らばりの指標が一定以下になった項目を採用する。
  • ラウンド間で回答が安定したか——前ラウンドと比べて評定がほとんど動かなくなったことをもって収束とみなす。

注意すべきは、割合の基準だけを使うと「ばらつきが大きいまま平均だけ高い項目」を拾ってしまうことです。割合と散らばりの両方を併記すると、査読でも指摘されにくくなります。

また、合意に達しなかった項目こそ報告する価値があります。専門家の間で意見が割れた論点は、その分野で未解決の争点を示しているからです。採用項目だけを並べた結果は、情報を捨てています。

よくある失敗と対策は?

失敗 何が起きるか 対策
合意基準を後から決める 結果に合わせて基準を選んだと見なされる 実施計画の段階で明記し、変更しない
ラウンドを重ねすぎる 脱落が増え、残った回答者が偏る 2〜3ラウンドを目安に設計する
脱落者を報告しない 収束が脱落によるものか判断できない ラウンドごとの回答者数を必ず示す
専門家の選定基準が曖昧 「なぜこの人たちなのか」に答えられない 選定基準を明文化して論文に書く
結果を母集団に一般化する 方法の前提を逸脱する 「専門家パネルの合意」と限定して記述する
フィードバックが詳しすぎる 特定の回答者が推測される 集計値のみを返し、個票は返さない

とくに脱落(ドロップアウト)の扱いは見落とされがちです。ラウンドが進むほど回答者は減り、最後まで残るのは関心の高い人に偏ります。「ばらつきが縮んだ」のではなく「意見の違う人が抜けた」だけかもしれない——この可能性を考察で検討しておくと、研究の誠実さが伝わります。

質問紙の設計はどうすればよいか?

ラウンド2以降で使う評定尺度は、通常の質問紙調査と同じ原則で作ります。段階数、中間選択肢の有無、項目の並び順による影響などは 研究用アンケート(質問紙)の作り方2026 にまとめています。オンラインで配付する場合の実務は Googleフォームでアンケートを作る手順2026 が参考になります。

デルファイ法特有の注意は、ラウンド間で質問文を変えないことです。文言が変われば、回答の変化が意見の修正によるものか文言の影響かを区別できなくなります。項目を追加する場合は「ラウンド1の自由記述から新規に追加した項目」であることを明示してください。

研究方法全体の中でどこに位置づくかは 研究方法とは?質的・量的・混合研究の選び方、質的段階と量的段階を組み合わせる設計として整理する場合は 混合研究法(Mixed Methods)とは を参照してください。項目案を先行研究から作る手順は 文献レビューの書き方2026 にあります。

よくある質問

デルファイ法の専門家は何人必要ですか?

絶対的な決まりはありません。研究目的と対象領域の広さによって適切な規模が変わります。重要なのは人数そのものより、選定基準を明文化し、ラウンドごとの回答者数と脱落数を報告することです。脱落を見込んで多めに依頼するのが実務的です。

ラウンドは何回行えばよいですか?

2〜3ラウンドで終える研究が多くみられます。回数を増やすほど脱落が進み、残った回答者が偏るためです。事前に決めた合意基準に達した時点、または回答が安定した時点で終了するのが原則です。

合意に達しなかった項目は書かなくてよいですか?

書いてください。意見が割れた項目は、その分野で未解決の争点を示す重要な結果です。採用項目のみを報告すると、得られた情報の一部を捨てることになります。

デルファイ法の結果を一般の集団に当てはめてよいですか?

できません。回答者は母集団から抽出した標本ではなく意図的に選ばれた専門家であるため、得られるのは「専門家パネルの合意」です。「一般的にこうである」と書かず、パネルの合意として限定的に記述してください。

ラウンド間で質問項目を変更してもよいですか?

既存項目の文言は変えないでください。変えると、回答の変化が意見の修正によるものか文言の影響かを区別できなくなります。ラウンド1の自由記述から新項目を追加する場合は、追加であることを明示します。

回答者に他の人の回答をそのまま見せてもよいですか?

個票は返さず、集計値(分布や中央値など)を返すのが原則です。少人数パネルでは個票から回答者が推測され、匿名性が崩れます。匿名性はデルファイ法の中核であり、崩れると方法として成立しません。

AIで論文を書き上げる

章立ての構成から執筆、SIST 02形式の参考文献整理まで——学術的誠実性を守りながら。無料登録、クレジットカード不要。

Tesifyを無料で始める →

カテゴリー