研究データの保存・管理ルール2026|10年保存の根拠と実験ノートの残し方

研究データの保存期間は、文書・電子データ・画像が論文発表後10年、実験試料や標本は5年が原則である。

この期間は、日本学術会議が2015年3月6日にまとめた回答「科学研究における健全性の向上について」で示された基準に基づく。文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(2014年)の運用にあたって示されたもので、多くの大学が学内規程にそのまま取り込んでいる。

「卒論なら関係ない」と考えるのは早い。データを残していないと、疑義が出たときに自分の潔白を証明する手段がなくなる。研究不正の告発では、記録の不在そのものが不利に働く。

何を、どれだけ保存するのか?

研究データの保存対象と期間(日本学術会議2015年回答に基づく)
対象 具体例 保存期間の目安
文書・電子データ・画像 実験ノート、生データ、解析スクリプト、質問紙の回答原票、撮影画像 論文発表後 原則10年
試料・標本 細胞、組織、化学試料、フィールド採取物 論文発表後 原則5年

ただし、保存が物理的・倫理的に困難な場合は例外が認められる。個人情報を含むインタビュー音声などは、倫理審査で承認された廃棄計画に従うのが優先だ。データの取り扱い方針は、インフォームドコンセントの説明同意文書に記載した内容と矛盾してはならない。

保存の起点は「論文発表後」

10年・5年の起点は、データを取った日ではなく論文が発表された日だ。卒論なら提出・受理された時点から数える。卒業後に研究室を離れても、データそのものは研究室に残す必要がある。個人のノートPCだけに保存して卒業する、というのが最も多い事故だ。

実験ノートには何を書くのか?

文科省ガイドラインは、研究活動の過程を実験ノートなどの形で記録に残すことを強く推奨し、これを一次情報記録として適切に保管すべきものと位置づけている。要件は分野で違うが、共通する骨格は次の5点だ。

  1. 日付——作業を行った日を毎ページに書く。後から日付を補完しない。
  2. 目的——その日の作業が何を確かめるためのものか、1行で書く。
  3. 手順の実際——計画ではなく、実際にやったことを書く。逸脱したら逸脱したと書く。
  4. 生の結果——加工前の測定値、失敗した試行も含めて残す。
  5. 気づき——異常値の心当たり、環境条件の変化など、後で解釈に効く情報。

紙のノートなら、ページを破らない・鉛筆で書かない・空白を残さない(残す場合は斜線を引く)が基本原則になる。電子ノートなら、編集履歴が残る仕組みを使う。

生データ・処理済みデータ・出力を3層に分けたフォルダ構成の概念図
生データ・処理済みデータ・出力を層で分ける。生データ層を読み取り専用にしておくと、上書き事故が構造的に起きなくなる。

学生が実務で押さえる3つのルール

ルール1:生データを上書きしない

最も多い事故が、Excelの元ファイルに直接分析を書き込んで生データを失うケースだ。生データは読み取り専用の別フォルダに隔離し、分析は必ずコピーで行う。「raw」「processed」「output」の3層に分けるだけで事故率が激減する。

ルール2:ファイル名に日付と版を入れる

調査データ_最終_修正版2_ほんとの最終.xlsx は、半年後の自分にとって解読不能になる。20260805_survey_raw_v01.csv のように、日付(YYYYMMDD)・内容・版番号を固定順で並べる。並べ替えたときに時系列で並ぶ利点も大きい。

ルール3:3-2-1 で持つ

バックアップは3つのコピー・2種類の媒体・1つは別の場所を目安にする。学生の現実的な構成は、ノートPCのローカル+大学が提供するクラウドストレージ+外付けSSDだ。クラウドだけに置くと、誤って同期削除したときに全滅する。

外付けSSDとノートパソコンを使った研究データのバックアップ
クラウドだけに置くと同期削除で全滅する。媒体を分けた3-2-1構成が、卒論データを守る最低ラインになる。

なぜここまで管理が求められるのか?

研究不正の3類型(捏造・改ざん・盗用)のうち、捏造と改ざんはデータの追跡可能性によって初めて検証できる。詳しくは捏造・改ざん・盗用(FFP)とは?を参照してほしい。生データと解析手順が残っていれば、結果を再現して疑義を晴らせる。残っていなければ、悪意がなくても説明責任を果たせない。

国内の研究不正の発生状況は論文不正の統計と実態で数字を確認できる。共著論文では、誰がどのデータに責任を持つかも問題になる。責任分担の考え方はオーサーシップの基準に整理した。

ヒトや動物を対象とする研究では、保存・廃棄の計画そのものが審査対象になる。手続きは医学研究の倫理審査と研究倫理とは?で確認できる。

よくある質問

卒論のデータも10年保存が必要ですか?

学内規程によります。多くの大学が学位論文にもガイドラインを適用しており、研究室のサーバに一式を残す運用が一般的です。卒業前に指導教員へ保存場所を報告してください。

アンケートの紙の原票は捨ててよいですか?

倫理審査で承認された保存・廃棄計画に従ってください。計画に廃棄時期が定められていない場合は、電子化したうえで原票も保存期間まで保管するのが安全です。

解析に使ったスクリプトも保存対象ですか?

対象です。生データから結果までの経路を再現できることが目的なので、解析コードや使用ソフトのバージョンも記録に含めてください。

個人情報を含むデータはどう保存しますか?

識別情報と研究データを分離し、対応表を別管理にします(連結可能匿名化)。保存媒体は暗号化し、アクセス権限を限定してください。

研究室のサーバが容量不足です。どうすればいいですか?

大学の情報基盤センターが提供する研究データ用ストレージや、機関リポジトリのデータ公開機能を確認してください。容量不足は保存義務を免除する理由になりません。

記録と執筆を切り離さない

データ管理が破綻するのは、記録と執筆が別作業になっているときだ。分析結果を論文に書き写す段階で、どの生データに由来するかが辿れなくなる。Tesifyは、確認済みの根拠と本文の対応を保ちながら執筆を進められるため、後から「この数値はどこから来たか」を辿り直す手間を減らせる。

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