病歴要約は、内科専攻医が専門研修の修了要件として作成する29件の症例まとめです。ジャーナルに投稿する症例報告とは目的が違い、J-OSLER上で担当指導医の個別評価、プログラム内の一次評価、プログラム外の査読委員による二次評価という三段階の審査を通す必要があります。差し戻しの多くは症例の珍しさではなく、記載の作法で起きます。

病歴要約とは何か?症例報告とどう違うのか
病歴要約は研修の到達度を示す内部文書で、読み手は指導医と査読委員です。一方、学術誌に載せる症例報告は新規性を読者に伝える公表物で、読み手は不特定の研究者・臨床医です。目的が違うので、同じ症例でも書き方が変わります。
| 比較軸 | 病歴要約(J-OSLER) | 症例報告(ジャーナル投稿) |
|---|---|---|
| 目的 | 研修の到達度の証明 | 知見の公表 |
| 読み手 | 担当指導医・病歴指導医・査読委員 | 学術誌の読者・査読者 |
| 件数 | 29件をひとまとまりで提出 | 1症例ごとに独立 |
| 求められるもの | 診断プロセスの妥当性と網羅性 | 症例の新規性・教育的価値 |
| 評価の単位 | 29件全体(1件でも差し戻しなら全体が差し戻し) | 原稿単位 |
学術誌への投稿を前提にしたケースレポートの構成・投稿手順は 医学部の症例報告(ケースレポート)の書き方2026 にまとめています。本記事はそちらとは別に、専門医研修の修了要件としての病歴要約だけを扱います。
29件はどう数えるのか?
専攻医は個別評価で承認された病歴要約のなかから29件を選んで一次評価に出します。日本内科学会は、この29件について外来症例は7件以内という上限を示しています。つまり残りは入院症例で構成することになり、外来中心のローテーションが続くと後半で件数が足りなくなります。
⚠️ 最も見落とされやすい仕様がひとつあります。学会は「病歴要約を作成すると症例の修正ができなくなります。作成前に今一度、症例の記載内容をご確認ください」と明記しています。症例登録の内容を固めてから病歴要約の作成に進んでください。順序を逆にすると、後から直せません。
三段階の評価はそれぞれ何を見るのか
J-OSLERは病歴要約を個別評価・一次評価・二次評価の3フェーズで管理します。段階ごとに評価者と評価期間が異なります。
| フェーズ | 評価者 | 単位 | 時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 個別評価 | 担当指導医 | 1件ずつ(承認/差戻し) | 主に研修1〜2年目 |
| 一次評価 | 病歴指導医 → プログラム統括責任者 | 29件まとめて | 研修3年目以降の4月〜10月末 |
| 二次評価 | プログラム外の査読委員 | 29件まとめて | 研修3年目以降の5月〜翌年2月20日 |
一次評価では、プログラム統括責任者が病歴指導医を指名し(7日以内が目安)、病歴指導医が29件を評価します(初回14日以内、差し戻し後の2回目は7日以内が目安)。その後、統括責任者が最終確認をして一次評価が完了します。二次評価は学会が指定した査読委員が担当し、初回の評価期間の目安は21日以内、差し戻し後の2回目は7日以内です。
評価の記号は3つです。1件ごとに「Accept(承認)」「Revision(要修正)」「Reject(要差替え)」が付き、29件全体に対する総括評価(コメント)が登録されます。「Reject(要差替え)」を選べるのは初回のみです。
🔴 ここが29件をひとまとまりで作る理由です。29件のうち1件でもRevisionまたはRejectがあれば、29件全体が差し戻しになります。しかも1件ずつ評価が終わった時点では通知されず、29件の評価が完了して総括評価が確定してはじめて結果が届きます。「1件だけ弱いが通るだろう」という判断が、束ごと戻ってくる形で返ってきます。

差し戻されにくい記載にするには何を書くのか
学会が公開する病歴評価項目は、診断プロセスの妥当性を問う設計になっています。その項目のひとつは「診断プロセスは適切か」のもとで、「現病歴に関する聴取は陰性所見も含めて十分記載されているか」を求めています。ここが実務上いちばん効きます。
- 陰性所見を省かない。「発熱なし」「体重減少なし」を書かないと、鑑別を検討した形跡が残りません。省略は「聴取していない」と読まれます。
- 鑑別診断とその除外根拠を対にする。最終診断だけを書くと、結果は正しくてもプロセスが見えません。
- 時系列を崩さない。現病歴・入院後経過は、検査と治療の前後関係が読み取れる順に書きます。
- 考察を要約の再掲にしない。経過をもう一度並べるのではなく、その症例から何を学んだかを書きます。考察の組み立て方は 論文の考察の書き方2026 の型がそのまま使えます。
- 指導医のコメントは次の28件にも反映する。1件で指摘された作法は、ほぼ確実に他の症例にも当てはまります。
限られた字数で症例の要点を落とさずまとめる訓練という意味では、学会抄録や論文要旨と共通する部分があります。要点の圧縮の型は 論文要旨・アブストラクトの書き方2026 が参考になります。
患者情報の扱いはどうするのか
病歴要約は公表物ではありませんが、患者の診療情報を含む文書であることに変わりはありません。施設の規程に従った匿名化が前提です。氏名・生年月日・カルテ番号・施設が特定できる固有名詞は、記載の必要性を都度確認してください。
なお、同じ症例を学術誌に投稿する場合は要件が別に発生します。公表を伴う症例報告での同意の取り方は 説明同意文書(インフォームド・コンセント)の書き方2026、倫理審査が必要になる場面の切り分けは 医学研究の倫理審査2026 で扱っています。研修の修了要件として書く病歴要約と、公表のために書く症例報告は、必要な手続きが別だと考えてください。
投稿まで進む場合の参考文献の書式は 医学論文の参考文献の書き方(バンクーバー方式)2026 にまとめています。
スケジュールはどう逆算するのか
一次評価は研修3年目以降の4月〜10月末、二次評価は5月〜翌年2月20日が評価期間です。二次評価には初回21日、差し戻し後7日という目安があり、差し戻しが1往復入ることを前提に置く必要があります。
- 1〜2年目のうちに個別評価を通しておく。29件を3年目にまとめて作るのは、評価期間の設計上ほぼ成立しません。
- 症例登録を確定してから病歴要約を作成する。作成後は症例を直せません。
- 外来症例が7件を超えないよう、早い段階で内訳を確認する。
- 一次評価の依頼は評価期間の後ろに寄せない。指名7日+評価14日+統括責任者14日が積み上がります。
- 二次評価は差し戻し1往復ぶんの余裕を見て依頼する。
⚠️ 本記事は日本内科学会が公開する制度説明に基づく概要です。評価期間・件数・運用は改定されることがあり、プログラムごとの内規もあります。必ずJ-OSLERの最新の案内と、所属プログラムの統括責任者・担当指導医に確認してください。本記事だけで提出計画を確定させないでください。
よくある質問
病歴要約は何件必要ですか?
29件です。専攻医は個別評価で承認された病歴要約のなかから29件を選んで一次評価に出します。このうち外来症例は7件以内とされています。
29件のうち1件だけ指摘された場合どうなりますか?
29件全体が差し戻しになります。1件でも「Revision(要修正)」または「Reject(要差替え)」があれば束ごと戻るため、Revisionの要約を修正し、Rejectの要約は別の病歴要約に差し替えて再度評価を依頼します。
病歴要約を作成したあとで症例の記載を直せますか?
直せません。日本内科学会は「病歴要約を作成すると症例の修正ができなくなります」と明記しています。作成前に症例の記載内容を確認してください。
二次評価は誰が行うのですか?
日本内科学会が指定した査読委員が行います。専攻医が所属するプログラム外の評価であることが特徴で、初回の評価期間の目安は21日以内、差し戻し後の2回目は7日以内です。
病歴要約と症例報告は同じものですか?
違います。病歴要約は専門研修の修了要件として提出する内部文書で、評価者は指導医と査読委員です。症例報告は学術誌に公表する論文で、新規性や教育的価値が問われます。同じ症例を扱っても目的と書き方が異なります。
差し替え(Reject)は何度でも起きますか?
「Reject(要差替え)」を選べるのは初回の評価のみです。なお差し替えた病歴要約は、病歴指導医とプログラム統括責任者の評価を受けたうえで、あらためて査読委員の評価を受けることになります。
下書きを早く作りたいとき
病歴要約でつまずくのは、症例が足りないからではなく、29件ぶんの記載を同じ作法で揃える時間がないからです。構成の型を決めて素案を起こす段階では、Tesifyのような下書きツールで骨格を素早く組み立てる方法もあります。
Tesifyがしないこと:診療情報の判断はしません。生成された文章はそのまま提出できる完成物ではなく素案です。診断プロセスの妥当性、陰性所見の網羅、患者情報の匿名化は、症例を診たあなた自身が確認し、書き直す必要があります。病歴要約はあなたの研修の記録であり、口頭で説明できない文章を提出すべきではありません。また、患者の診療情報を外部サービスに入力してよいかは施設の規程に従ってください。
