データ管理計画(DMP)とは、研究を始める前に、どんなデータをどう取得し、どこに保存し、誰と共有し、終了後どうするかを文書化したものです。研究費の申請時に提出を求められることが増えており、後から書くものではありません。

なぜ研究前に書くのか?
DMPの本質は書類の提出ではなく、データの扱いを先に決めておくことにあります。後から決めようとすると、取り返しがつかない事態が起こります。
- 同意書に書いていない使い方はできない。データ収集後に「二次利用したい」と思っても、同意の範囲外なら使えません。
- 命名規則を決めずに集めたファイルは、後から整理できない。「最終版_修正2_ほんとの最終.xlsx」が量産されます。
- 保存場所を決めずに進めると、共同研究者との受け渡しで版が分岐する。
DMPは提出先のための書類であると同時に、自分の研究を破綻させないための設計です。
何を書くのか——7つの項目
様式は提出先ごとに異なりますが、問われる内容はおおむね共通しています。
| # | 項目 | 決めること |
|---|---|---|
| 1 | データの種類 | 実験値・調査回答・音声・画像・二次データなど。形式(CSV・音声ファイル等)と概算量 |
| 2 | 取得方法 | どこから、誰から、どの期間に取得するか |
| 3 | 命名と整理 | ファイル命名規則、フォルダ構成、版管理の方法 |
| 4 | 保存とバックアップ | 保存先、バックアップの本数と頻度、保存期間 |
| 5 | 個人情報・機密 | 匿名化の方法、同意の範囲、アクセスできる人の範囲 |
| 6 | 共有・公開 | 誰といつ共有するか。公開するか、するならどこに、いつ |
| 7 | 終了後の扱い | 保存を続けるか廃棄するか。廃棄する場合の方法と時期 |
4番と7番は必ず具体的な期間で書いてください。「適切に保存する」では計画になりません。分野や機関によって求められる保存年限が定められている場合があるため、所属機関の規程を確認してください。保存の実務そのものは 研究データの保存・管理ルール2026 にまとめています。DMPが「事前の計画」、そちらが「実際の保存運用」という関係です。
バックアップは何本必要か?
実務的な目安として広く使われている考え方が、コピーを複数持ち、異なる媒体に置き、少なくとも1つは別の場所に保管するという原則です。
- 研究室のPCだけ、は計画とは呼べません。盗難・故障・水濡れで一度に失われます。
- クラウドのみも同様です。アカウント停止や誤削除の同期が起こります。
- 「バックアップを取っている」と「復元できる」は別です。一度、実際に戻せるか試してください。
ただし個人情報を含むデータをどこに置けるかは所属機関の規程が優先します。個人契約のクラウドが禁止されている機関は珍しくありません。規程を確認してからDMPを書いてください。順序が逆だと書き直しになります。

個人情報を含む場合はどうするか?
DMPと倫理審査は密接に連動します。倫理審査の申請書に書いたデータの扱いと、DMPの記載が食い違っていると、どちらかを直すことになります。
整合させるべき点は次のとおりです。
- 匿名化の時点。取得と同時か、後からか。対応表を作るなら誰がどこに保管するか。
- 同意の範囲。二次利用・データ公開まで同意を得ているか。書式は インフォームドコンセントの書き方2026 を参照してください。
- アクセスできる人。指導教員・共同研究者・外部委託先まで含めて書きます。
- 公開の可否。個人情報を含むデータは公開できないことが多く、その場合は「公開しない理由」を書きます。
倫理審査の枠組みは 医学研究の倫理審査とは2026 にまとめています。生成AIにデータを入力する予定があるなら、それもDMPに書くべき事項です。扱いは 生成AIに研究データを入力してよいか2026 で扱っています。
卒論・修論でも必要なのか?
提出を求められないことがほとんどですが、7項目を自分用に書いておく価値は十分にあります。とくに次の場面で効きます。
- データが消えたときに詰まない。学生の研究で最も多い事故がデータ喪失です。
- 指導教員への説明が速くなる。どのデータをどう処理したかを聞かれたとき、記録があれば即答できます。
- 論文の「方法」の章がそのまま書ける。DMPの1〜3番は方法の記述と大部分が重なります。書き方は 論文の本論(本文)の書き方2026 を参照してください。
- 研究倫理の基本姿勢を示せる。考え方は 研究倫理とは?2026 にまとめています。
A4で1枚あれば十分です。凝った様式より、決めたことが書いてあることのほうが重要です。二次データを使う場合の提供元の条件確認は 二次データ分析で卒論を書く方法2026 にまとめています。
よくある質問
データ管理計画はいつ書きますか?
研究を始める前です。研究費の申請時に提出を求められることが増えています。データ収集後に書こうとすると、同意の範囲外の使い方ができない、命名規則が揃わないといった、取り返しのつかない問題が生じます。
DMPと研究データの保存ルールは同じものですか?
違います。DMPは研究開始前に立てる計画で、保存年限や実験ノートの残し方は実際の運用にあたります。DMPの4番と7番が保存運用に接続する関係だと考えてください。
バックアップは何本取ればよいですか?
コピーを複数持ち、異なる媒体に置き、少なくとも1つは別の場所に保管する、という原則が広く使われています。ただし個人情報を含むデータの保存先は所属機関の規程が優先するため、先に規程を確認してください。
個人契約のクラウドに研究データを置いてよいですか?
所属機関の規程によります。個人契約のクラウドサービスの利用を禁止している機関は珍しくありません。DMPを書く前に規程を確認しないと、書き直しになります。
卒論でもDMPを作るべきですか?
提出を求められないことがほとんどですが、自分用に作る価値はあります。データ喪失を防げるほか、DMPの前半は論文の「方法」の章の記述とほぼ重なるため、執筆時の手戻りが減ります。A4で1枚あれば十分です。
倫理審査の申請書と内容が食い違うとどうなりますか?
どちらかを修正することになります。匿名化の時点、同意の範囲、アクセスできる人の範囲、公開の可否は両方に書く項目なので、最初から同じ内容になるよう揃えて作成してください。
