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博士論文のインターネット公表義務2026|学位規則第9条と機関リポジトリ登録の実務

博士論文のインターネット公表義務2026|学位規則第9条と機関リポジトリ登録の実務

博士の学位を取得すると、その論文をインターネットで公表する義務が生じる。期限は学位授与から1年以内で、原則として全文が対象になる。この義務は法令に基づくものであり、大学の任意の運用ではない。修士論文や卒業論文には同じ義務はないが、大学が独自に登録を求める場合はある。

結論を先に言うと:学位規則第9条により、博士論文は学位授与日から1年以内に全文をインターネット公表する。やむを得ない事由があれば大学の承認を得て要約公表に代えられるが、その場合も大学は求めに応じて全文を閲覧に供する。図表の転載許諾と匿名化は、学位取得後ではなく執筆中に片付けておく必要がある。

公表義務の内容は?

根拠は学位規則第9条である。文部科学省の学位規則の一部を改正する省令の施行等について(通知)によれば、同条は「博士の学位を授与された者は,当該博士の学位を授与された日から1年以内に,当該博士論文の全文を公表するものとすること」と定め、公表はインターネットの利用により、学位を授与した大学等の協力を得て行うものとされている。

この改正は平成25年(2013年)4月1日に施行された。それ以前は印刷公表が原則だったが、教育研究成果の電子化とオープンアクセスの推進を背景に、インターネットによる公表へと切り替えられた経緯がある。

押さえるべき点は3つある。

  • 義務の主体は学位取得者本人——大学が代行するのではなく、大学の協力を得て本人が公表する建て付けである
  • 期限は授与日から1年以内——修了年度末ではなく、授与日が起算点になる
  • 原則は全文——要約で済ませるには承認が要る
学位授与から1年以内の公表までの流れを示した図解
起算点は修了年度末ではなく学位授与日である。

修士論文・卒業論文はどうなるのか?

学位規則第9条が対象とするのは博士論文であり、上記の通知にも修士論文に関する定めは含まれていない。したがって修士論文や卒業論文について、法令上の一律の公表義務はない。

ただし実務上は注意が要る。多くの大学が、修士論文や優秀な卒業論文を機関リポジトリに登録する運用を独自に持っている。この場合の根拠は法令ではなく大学の内規や本人の同意である。提出時の書類に公開の可否を選ぶ欄があることが多いので、そこで意思表示することになる。

「学内提出だから誰にも読まれない」と思って書いた論文が後から公開対象になる、という食い違いはここで生じる。第三者の図表を使っている場合や、調査対象者の記述を含む場合は、提出前に公開範囲を確認しておきたい。学位論文を引用する側の書式は学位論文の引用・参考文献の書き方にまとめている。

要約公表が認められるのはどんな場合か?

第9条は例外も用意している。やむを得ない事由がある場合、大学等の承認を受けて、全文に代えて内容を要約したものを公表できる。前掲の文部科学省通知は、やむを得ない事由として次のような類型を挙げている。

要約公表が検討されうる事由(文部科学省通知に示された類型)
類型 具体例
内容が公表になじまない 立体的な表現物などを含み、インターネット公表に適さない場合
権利・プライバシーの制約 著作権やプライバシーの問題で1年以内の公表が困難な場合
出版・特許との関係 学術雑誌の方針や特許出願との関係で不利益が生じる場合

重要なのは、要約公表が認められても全文が非公開になるわけではない点である。通知は、この場合に大学等が「その論文の全文を求めに応じて閲覧に供するものとすること」としている。要約公表は公開範囲の縮小ではなく、公開方法の変更だと理解するのが正確である。

承認するのは大学であり、本人の判断だけで要約に切り替えることはできない。申請の様式と締切は大学ごとに異なるため、早めに図書館か学務窓口に確認したい。

やむを得ない事由による要約公表を大学へ申請する場面
要約公表への切り替えには大学の承認が必要になる。

機関リポジトリ登録の実務

実際の公表先は、多くの場合その大学の機関リポジトリである。手続きの流れは概ね次のようになる。

  1. 公開方法の申請——全文公開か要約公開かを選び、必要なら承認を得る
  2. 電子ファイルの提出——指定された形式で提出する。フォント埋め込みなどの要件がある場合が多い
  3. 権利処理の確認——第三者の図表について許諾の有無を申告する
  4. 公開日の設定——事情によりエンバーゴ(一定期間の公開猶予)が設定されることがある
  5. 公開とメタデータ付与——リポジトリ上で公開され、検索対象になる

3番目でつまずく例が最も多い。他の文献から転載した図表について許諾が取れていないと、その部分を削除した版を公開することになり、論文の可読性が落ちる。公開版で図表を落とす事態を避けるには、執筆中に処理しておくしかない。

オープンアクセスをめぐる全体状況はオープンアクセス論文の割合データで扱っている。

執筆段階で何をしておくべきか?

公表は学位取得後の話だが、備えは執筆中にしかできない。次の4点を執筆と並行して進めたい。

  • 図表の転載許諾——出典表記だけでなく、公開を含む許諾を得ておく
  • 調査対象者の匿名化——公開を前提とした記述水準にしておく
  • 共同研究先との合意——未公表データの公開時期を確認する
  • 特許・投稿予定の整理——出願や投稿の予定があるなら指導教員と時期を調整する

2番目は特に重要である。学内審査だけを想定した記述と、世界中から検索できる状態での記述では、要求される匿名化の水準が違う。研究データそのものの保存と管理については研究データの保存・管理ルールを参照してほしい。

公表後に雑誌へ投稿できるのか?

学位論文としてリポジトリで公開したものを、後から学術雑誌に投稿できるかは投稿先の方針による。学位論文としての公表を二重投稿とみなさない雑誌が多い一方、扱いが異なる場合もある。

安全な進め方は次のとおり。

  1. 投稿規程で学位論文の扱いを確認する
  2. 投稿時のカバーレターで、学位論文に基づく旨を明記する
  3. 必要ならエンバーゴの設定を大学に相談する

自分の過去の成果を再利用する際の考え方は自己剽窃・二重投稿とは?、投稿の一般的な流れは論文投稿の手順にまとめている。

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よくある質問

博士論文は必ずインターネットで公表しなければなりませんか?

学位規則第9条により、博士の学位を授与された者は授与された日から1年以内に博士論文の全文をインターネットの利用により公表するものとされています。やむを得ない事由がある場合は、大学等の承認を得て要約の公表に代えることができます。

修士論文や卒業論文にも公表義務はありますか?

学位規則第9条は博士論文を対象としており、修士論文や卒業論文について同様の義務は定めていません。ただし大学が独自に機関リポジトリへの登録を求める場合はあるため、所属大学の取扱いを確認してください。

やむを得ない事由とはどのような場合ですか?

文部科学省の通知では、立体的な表現物などインターネット公表になじまない内容を含む場合、著作権やプライバシーの制約で1年以内の公表が難しい場合、学術雑誌の方針や特許出願との関係で不利益が生じる場合などが挙げられています。判断は大学の承認によります。

要約を公表した場合、全文は誰も読めなくなるのですか?

読めなくなるわけではありません。要約の公表が認められた場合でも、学位を授与した大学等はその論文の全文を求めに応じて閲覧に供するものとされています。閲覧の手続きは各大学が定めています。

公表された博士論文を他の雑誌に投稿できますか?

投稿先の方針によります。学位論文としての公表を二重投稿とみなさない雑誌が多い一方、扱いが異なる場合もあります。投稿規程を事前に確認し、学位論文に基づく旨を明記するのが安全です。

公表を前提に執筆段階で気をつけることは?

第三者の図表を転載する場合の許諾、調査対象者の匿名化、共著者や共同研究先との公開範囲の合意を、執筆中に済ませておくことです。学位取得後に権利処理を始めると1年の期限に間に合わなくなります。

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